はじめに
カンナビジオール(CBD)オイルにはこれまで、ドライマウス、疲労感、食欲の変化、吐き気などの副作用が報告されていますが、腎臓に対してはどういった影響を与えるのでしょうか?本稿では、CBDが腎臓に及ぼす副作用について解説していきます。
このトピックの重要性を知っていただくために、まずは腎臓病に関する背景から見ていきましょう。
- 世界では、約10%の人が慢性腎臓病(CKD)を患っており、その内の多くが安価な治療すら受けられないために重症化の末に亡くなり、死者数は年々増加している。
- 慢性腎臓病は、2010年の世界的な疾病負担調査で 18位 にランクインした。
- 近年、慢性腎臓病は世界的な健康問題として認識されるようになってきた。
- WHO は、腎臓病が糖尿病、高血圧、心血管疾患、HIV、マラリアを含む他の5つの合併症のリスクを高めると報告している。
これらの内容を鑑みると、診断や治療の遅れがこの疾患による死亡率を上げている事がわかります。したがって、これ以上事態を深刻化させないためにも、慢性腎臓病に関する基本的な認識や情報をより多くに人に広めることが急務だと言えるでしょう。
慢性腎臓病とは?
腎臓が持つ機能を簡単にまとめると、以下の通りです。
- ビタミンD、エリスロポエチン(EPO)、カルシトリオール、レニンなどのホルモン群の産出
- 体液、水、ミネラル、電解質、化学物質などの流れの調節
- 余分な水分、毒素、老廃物の除去と排泄
これらの機能が低下すると、体は時間と共に永続的なダメージを受けることになり、慢性腎臓病を引き起こします。
このダメージが修復されないと、最終的には腎臓が機能を停止し、末期腎不全(ESRD)という疾患名に変わります。この段階になると、透析や腎移植が生き延びるための唯一の選択肢となります。
腎臓病は、血管、心臓、神経、骨などを蝕む他の関連疾患を併発する可能性がある事にも注意が必要です
腎臓病の一般的な原因
腎臓病は主に、糖尿病や高血糖によって引き起こされます。
その他の原因には、以下の様なものがあります。
- 糸球体腎炎(GN)糸球体は、腎臓に送られた血液をろ過するための、輪状の血管のかたまりです。糸球体に損傷や炎症が生じると、タンパク質や赤血球が尿の中に漏出し、腎臓の排泄プロセスが阻害されてしまいます。その結果、血液中に老廃物が溜まって腎不全を引き起こします。いくつかの感染症、毒性薬物、糖尿病性腎症、全身性エリトマトーデスなどがこの状態に陥る原因として考えられます。
- IgA腎症は、糸球体疾患の一種だと考えられています。
- 全身性硬化症は、あらゆる組織でタンパク質やコラーゲンが過剰に生成される疾患です。
- 遺伝的要因(多発性嚢胞腎)
- 重度の尿路感染症
- 前立腺肥大
- 高血圧症
- グッドパスチャー症候群は、肺や腎臓に影響を与える 希少自己免疫疾患 です。
- ネフローゼ症候群 も腎臓病の原因となる疾患で、罹患者の体内ではタンパク質の含有量が尿中では非常に高くなりますが、血液中では非常に低くなります。また、高コレステロール、足や手のむくみなどの他の合併症を伴います。この症候群自体は病気ではありませんが、他の疾患と一緒に発症する場合があります。
- 感染症、肝障害や肝酵素の上昇、低血圧、膀胱の閉塞、怪我、長期にわたる病気、入院などが急性腎不全(AKI)につながる事があります。
- その他の一般的な原因としては、老齢、家族歴、心臓病、人種の特徴などがあります
CBDオイルの副作用と腎臓病の症状 – 類推
腎臓病の一般的な症状
- 皮膚のかゆみ、腎臓自体のかゆみや発疹、尿毒症性掻痒症 ( 痛みのある慢性的なかゆみ )
- 筋痙攣
- 吐き気と嘔吐
- 食欲不振
- 腫れ
- 睡眠の乱れ
- 浅い呼吸
- 頻尿
- 腰痛
- 下痢
- 性的機能障害(CKD、ESRDどちらでも一般的)
では、いよいよ本題のカンナビジオール(CBD)の副作用について見ていきましょう。
- 2011年に行われた研究では、CBDの副作用として、肝臓における薬物代謝の阻害、受精能力の低下、肝薬物代謝の低下、薬物輸送機構の活性低下、細胞生存率の低下などを引き起こす恐れを指摘した研究がある事を報告しています。
- 2019年の研究の中で紹介されている参考資料には、過度の眠気、鎮静と嗜眠、疲労、食欲減退、下痢、嘔吐、腹痛などの副作用が報告されているという指摘があります。((Huestis MA, Solimini R, Pichini S, Pacifici R, Carlier J, Busardò FP. Cannabidiol Adverse Effects and Toxicity. Curr Neuropharmacol. 2019;17(10):974-989.doi:10.2174/1570159X17666190603171901))
この事から分かる通り、CBDの副作用と腎臓病の症状には、いくつか共通点があるようですが、この類似性が示すものは一体何なのでしょうか。さらに詳しく探っていきましょう。
先ほどの2019年の研究から得られたいくつかの有益な情報は以下の通りです。1
- 腹腔内経路(IP)と静脈内経路(IV)のルートではバイオアベイラビリティの高さから、CBDの副作用や毒性が強く現れる傾向にあるが、この特徴は、てんかんや精神疾患の治療を受けている場合に現れる可能性がある事がわかった。
- CBDを継続的に摂取した場合のホルモン、酵素、他の薬剤との相互作用や薬物輸送体、DNAに影響を与える毒性などがもたらす後遺症については、さらなる研究が必要だ。
- CBDによる過度の眠気や鎮静作用は用量に依存するが、これはほとんどの場合、抗てんかん薬、中枢神経系(CNS)抑制剤、アルコールなどと一緒に投与された場合である。
- CBDの副作用は、摂取量やその時行っていた家庭療法などによって現れ方が変化する。この研究では、錠剤、カプセル、スプレー、Eリキッド、オイルなど、CBD製品の多様さがCBDの副作用を助長している事が指摘されている。
最新の研究では、カンナビスに関する現在の研究には、娯楽用のカンナビスを対象としたものが多い事が懸念されています。
同様に、研究目的で開発された合成カンナビノイドが、危険ドラッグになり得る危険性についても指摘されています。合成カンナビノイドは、通常の血液検査や尿検査では検出されないため、急性腎障害(AKI)の患者を扱う腎臓内科医に誤解を与える可能性があるのです。
また、 カンナビノイド悪阻症候群 (CHS)は、腎前性AKIと同じ文脈で語られる事があります。
この研究から得られたその他の発見
- CBDはタクロリムスの濃度を増加させる可能性があるが、小規模のケーススタディでは、腎移植患者の慢性的な痛みに対して低用量のCBDを投与しても、タクロリムスの量に変化は見られなかった。
(タクロリムス検査は、血液中の薬剤の量を評価し、治療レベルに達しているかどうか、毒性レベル以下であるかどうかの確認のために行われます。)
2017年の研究 5 からの参照:タクロリムスは免疫抑制剤であり、心臓、肝臓、腎臓、または膵臓移植を受けた患者に使用される。((Yuan D, Fang Z, Sun F, et al. Effect of Vitamin D and Tacrolimus Combination Therapy on IgA Nephropathy. Med Sci Monit. 2017;23:3170-3177. Published 2017 Jun 29. doi:10.12659/msm.905073))
この推論に加えて、また別の研究において、腎移植の免疫抑制療法におけるタクロリムスの重要性や、移植後の糖尿病のリスクが高まることが指摘されています。2
- THCとCBDは、処方薬の代謝に影響を与える可能性がある。
- CBDを200mg経口投与した場合、最大の血漿中濃度は変化しなかった。
- 高用量のCBDは肝酵素を増加させる可能性がある。
- CBDが腎機能にネガティブな作用をもたらす証拠は今のところ存在しない。
- 慢性腎臓病の患者がカンナビスを使用する場合は、肺の合併症を回避するために、用量を出来るだけ少なくし、喫煙を控える必要がある。
CBDが腎臓に与える潜在的な影響:研究でわかった事
- 2017年の研究では、CB1受容体とCB2受容体が腎臓内で確認され、カンナビス成分によってこれらの受容体が活性化される可能性が指摘されています。しかし、腎臓病の種類や損傷の状態を考慮すると、腎臓への影響は有害な場合と有益な場合、どちらもあることがいくつかの実験的研究で示されています。 ((Park F, Potukuchi PK, Moradi H, Kovesdy CP. Cannabinoids and the kidney: effects in health and disease. Am J Physiol Renal Physiol. 2017 Nov 1;313(5):F1124-F1132. doi: 10.1152/ajprenal.00290.2017. Epub 2017 Jul 26. PMID: 28747360; PMCID: PMC5792153.))
- 上記の研究結果とは反対に、2019年の研究では、腎臓にはCB1受容体とCB2受容体が存在しているものの、腎臓におけるエンドカンナビノイドシステム(ECS)がどの様に反応するのかはまだ未解明だとしています。
- 一方で同研究では、ESRDの尿毒症性掻痒症に外用薬として使用される合成カンナビノイドに関する予備的調査をする価値があると評価しています。
- 腎臓病の症状に関しては、神経障害性疼痛が慢性腎臓病と大きく関係している事がわかっていますが、この研究では、慢性腎臓病の症状管理においてカンナビスの有効性はそれほど高いものではないと結論づけています。ここで思い出していただきたいのは、当サイトの「腰痛のためのCBD」という記事の内容です。この記事では、CBDの局所適用の役割と、侵害受容性および神経因性の痛みをブロックする可能性について説明しています。
- 2020年の研究では、進行性の慢性腎臓病を患う患者は、症状を管理するためにカンナビスを使用する傾向にあると報告しています。また、同研究では、全米アカデミーズが慢性疼痛治療にカンナビスとカンナビノイドを使用することに関する貴重な証拠があると結論づけた事にも触れています。3
腎臓病とCOVID-19
新型コロナウイルスが世界中で猛威を奮っている中でも、腎臓病に関する研究は日々着々と行われています。そうは言っても、この大規模なパンデミックは、世界中の医学研究者を震撼させています。
そんな中、COVID-19の治療を受けるために入院した人は、急性腎障害(AKI)を発症するリスクが高いという検証結果が得られました。COVID-19の後遺症には、腎臓の尿細管障害、血液凝固の増加、腎臓の感染症など、腎臓に関連したものが多くあり、さらにCOVID-19と急性腎障害から回復した後も、引き続き腎機能が低下し続けている患者がいるというデータもあります。
この研究では、そういった患者に対して腎臓専門医の定期的な診察を受けることを推奨しています。
腎機能の状態を知るための簡単な検査とは?
腎臓病は痛みを伴う一般的な疾患ですが、早期に診断することで治療することが可能で、尿検査や血液検査を受ける事で、簡単にご自身の腎機能を確認することができます。
- 尿検査では、アルブミン・クレアチニン比(ACRテスト)と呼ばれる測定方法を用いて尿中のタンパク質アルブミンの量を測定します。タンパク質が過剰であれば慢性腎臓病を示し、心臓発作のリスクが高いという事になります。
- 血液検査では、糸球体濾過量(GFR)と血糖値(糖尿病は慢性腎臓病の主な要因です)を測ります。GFRの値では、腎臓が正常に機能しているかどうか、また、体内の老廃物がどのくらいの割合で排出されているのかがわかります。健康な腎臓は1分間に100mlをろ過しており、これを指標にして判断するといいでしょう。1分間のろ過量が60mlを下回る場合は、直ちに腎臓専門医に相談してください。
今回のまとめ
- 高血圧と糖尿病は、腎臓病を引き起こす最も一般的な原因ですが、定期的な運動、体重の管理、瞑想、アルコールや喫煙の回避、塩分摂取の低減、健康的な食事への切り替えなどの簡単な生活習慣の改善を行う事で、発症を防ぐことは十分に可能です。
- 腎臓病は静かに進行する病気で、初期においてはほとんど症状が現れませんが、早期発見ができれば適切な治療を受ける事ができます。ですから、定期的に尿検査や血液検査を行うことで、腎臓病やそれに伴う合併症のリスクをできる限り防ぐことができます。
- カンナビジオール(CBD)は、カンナビスから抽出される非精神活性の化合物で、多岐にわたる健康上のメリットがあることから、多くの人に日常的に使用されています。また、CBDは、てんかん、疼痛管理、うつ病、不安症などの様々な疾患に対して治療効果を持つことが、臨床的に証明されつつあります。また、CBDの安全性についてはこれまで多くの研究が報告されてきましたが、カンナビスやカンナビノイドが腎臓に与える生理的な影響については、さらなる研究が必要です。
- 腎臓に対するCBDの肯定的または否定的な影響を結論付けすることについての知識のギャップがあります。CBDが腎臓にもたらすポジティブな影響とネガティブな影響を正しく評価するための知見には、未だ偏りがあります。その理由としては、これまでに実施された試験の多くが少数の腎臓病患者を対象としたものであることや、CBDの慢性投与、CBDの免疫機能、ホルモン、遺伝毒性に関する研究が少ないことなどが挙げられます。
- 処方薬以外で慢性腎臓病の症状を和らげるための代替療法は限られているため、CBD製品の需要は日に日に高くなっています。そのため、腎臓病患者や医療従事者に対するCBDの使用方法や副作用の指導や教育が求められています。
- ある研究では、市場が十分に規制されていない中でCBD製品を使用する場合、より多くの予備知識が必要となる事を強調しています。3
- 安全な使用のために消費者一人一人ができる事としては、高品質のCBD製品を選ぶ、記載をしっかりと確認する、第三者機関による検査結果を確認するなどが挙げられます。同時に、慢性腎臓病や急性腎不全の患者がCBD製品を自らに使用する際には、薬物相互作用の危険性を避けるために必ず腎臓内科などの医療専門機関に相談する様にしてください。
参考文献
- Huestis MA, Solimini R, Pichini S, Pacifici R, Carlier J, Busardò FP. Cannabidiol Adverse Effects and Toxicity. Curr Neuropharmacol. 2019;17(10):974-989. doi:10.2174/1570159X17666190603171901 [↩]
- Jouve T, Noble J, Rostaing L, Malvezzi P. Tailoring tacrolimus therapy in kidney transplantation. Expert Rev Clin Pharmacol. 2018 Jun;11(6):581-588. doi: 10.1080/17512433.2018.1479638. Epub 2018 May 25. PMID: 29779413. [↩]
- Rein JL. The nephrologist’s guide to cannabis and cannabinoids. Curr Opin Nephrol Hypertens. 2020;29(2):248-257. doi:10.1097/MNH.0000000000000590 [↩] [↩]