はじめに
CBDを配合した目薬は、神経障害性眼痛や糖尿病性網膜症(糖尿病から引き起こされる目の合併症)の治療に有効だと考えられています。
この製品には、処方される点眼薬と比べてどの様なメリット、デメリットがあるのでしょうか。
詳しく掘り下げていきましょう
CBDは、オイル、ペースト、クリスタル、クリーム、バーム、パッチ、エディブルなど様々な製品タイプで親しまれています。また、口、舌下、皮膚の局所、直腸、鼻腔など、取り入れる経路も様々なため、ユーザーは数多くの選択肢から最良の製品と摂取方法を選んで最適な治療効果を得る事ができるのです。
本稿では、眼球を介してカンナビノイドを吸収する、「眼球投与」について知見を広めていきたいと思います。
まず、THC濃度が高いカンナビスを吸引摂取すると緑内障の眼圧が下がることが既に科学的にあきらかになっています。しかしながら、親油性であるカンナビス化合物を配合した目薬の開発は困難とされてきました。
一方、処方目薬においても、眼球の裏側に薬剤を行き渡らせて痛みや炎症を軽減させる事が難しいという課題がありました。例えば、アメリカ人が失明する原因第二位である緑内障に対して処方目薬を局所に使用する事で、副作用が起こるという研究報告があります。
カンナビノイドを配合した点眼薬は、こうした問題点がある従来の点眼薬に代わる治療薬として応用可能なのでしょうか?また、目の疾患に対して効果的かつ安全に使用するためには、どの様な薬物送達の改善が必要なのでしょうか?
本稿では、CBD点眼薬についてより多くのことを知って頂くために出来るだけ簡単にこの製品について解説するとともに、カンナビノイドを眼球に投与する事による体の反応についても詳しく説明していきたいと思います。
CBD点眼薬とは?
CBD点眼薬とは、カンナビスから抽出したカンナビジオール(CBD)をミネラルオイルに溶かした液体です。製造工程はシンプルに思えますが、ある研究では脂質プロファイル測定においてCBD点眼薬が複雑な構造を有していると報告しています。
2019年に行われた研究では、親油性の分子であるカンナビジオールを眼球の裏側へ局所的に送達させる事は困難だと結論づけています。1
眼科用の処方薬は、水分を蓄えている涙液層と角膜を通過して眼球に到達しますが、カンナビスの溶液は前述の通り水に溶けにくいため、天然、合成問わず点眼薬の薬剤としては、決して相応しい成分だとは言えないでしょう。
一方で、2017年の研究では上記の研究結果と反対の結論が出されています。この研究では、親油性の薬剤は特に角膜から効率的に吸収され、親油性と親水性の薬剤はどちらも結膜や強膜(白目)からよく浸透すると結論づけています。2
カンナビノイドと緑内障
緑内障研究財団(GRF)は、緑内障を「視神経が損傷して永久的な視力喪失に至る複雑な疾患」と定義しています。
最も重要な点は、この疾患が眼圧(IOP)の上昇と共に表面化してくる事です。眼圧は、液体の生産量と排出量のバランスによって決まります。適切な眼圧を維持する事で眼を健康に保つ事ができるため、このバランスを調節する機能を改善する事がこの疾患の治療の鍵でもあります。
- 1971年に行われたこの分野における初期の研究では、臨床研究に参加した大多数の被験者が、カンナビスの喫煙によって眼圧が大幅に低下したという結果が得られました。
- 2017年の研究では、他のいくつかの調査をまとめた結果、カンナビノイドが抗緑内障薬としての作用以外にも、その他の複数のメカニズムで眼圧を下げる働きがある事が明らかになりました。3この研究で提示された最も重要な推論として、THCが緑内障の治療に大きな有益性を示し、眼疾患に対して神経保護作用が働いたという点が挙げられます。
- ブリティッシュコロンビア大学の研究者達は、カンナビノイドが水溶性ではない点に注目し、ナノ粒子技術を用いた新たな点眼薬を開発しました。
- この研究で、CBGAを搭載したナノ粒子の生成に成功し、これによって角膜に浸透させる事が可能になりました。この新しい点眼薬は、投与すると目の表面にレンズ上の膜を形成し、その後徐々にカンナビノイドの放出が始まります。
投与された薬剤は、眼球表面の温度と調和するまでは液体のままですが、次第にゲル状になり、コンタクトレンズの様に目を覆います。このレンズは、約8時間かけてゆっくりとCBGAを放出しながら溶解していきます。
- ここで、2016年の研究から得られた興味深い2つの結論をご紹介します。4
- 外因性カンナビノイドであるTHCとCBDには、網膜に構造的あるいは機能的な変化をもたらす特性がある
- 当研究は、網膜疾患の治療や予防のために合成カンナビノイドを使用する事を支持する
- 同様に、CBDのアナログ誘導体に関する、動物モデルを用いた2019年の研究では、CBDアナログが目の組織に対して高い浸透性を示す事が実証されています。1
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CBDは眼圧を下げる?
米国眼科学会(AAO)によると、CBDは眼圧を下げず、むしろ上昇させてしまうという研究結果が出ています。
さらに、ここでは以下の2つの研究が参照されています。
1. 2018年の研究では、THCとCBDを単体で含む2種類の目薬をラットに投与し、眼圧の結果を比較しました。5
その結果、以下のような観察結果が報告されました。
THCの結果
- THCを配合した点眼薬を投与すると、8時間以内に眼圧が30%低下した
- THCの効果には性差があり、メスのラットは4時間後には中程度の眼圧低下を示したが、8時間後には眼圧への影響がなくなった
- 一方オスのラットでは、THCの効果が8時間持続した
CBDの結果
- CBD点眼後、1時間経過時と4時間経過時にメスとオスのマウス両方に眼圧の顕著な上昇が確認された。
THCとCBD混合の結果
- THCとCBDの混合点眼薬の投与では、オスラットの眼圧は低下しなかった
2.2006年に行われた無作為化研究では、6人の緑内障患者にTHCとCBDを舌下投与して眼圧レベルの変化を調べました。6その結果は、上記研究と同様ものとなりました。内容は以下の通りです。
- 5mgのTHCを舌下投与してから2時間後には眼圧が大幅に低下し、症状が和らいだという被験者の報告もあった
- 20mgのCBDを舌下投与しても、眼圧は一向に低下しなかった
- 40mgのCBDを投与した場合、4時間後に短時間の眼圧上昇が見られた
CBD点眼薬は安全?
これまでの内容から、CBD点眼薬の効果や安全性に関する研究結果には様々なものが混在している事が分かりました。また、この分野の研究は極めて複雑で、膨大な費用と時間がかかる事も想像に難くありません。この様な研究途中の段階でCBDを点眼薬として使用しても安全かどうかの結論を出すことは、賢明とは言えないでしょう。
さらに、2019年に行われた研究では、いくつかの疾患に対するCBDの使用は増加傾向にあるものの、その有効性を科学的に証明する十分な証拠がまだないと指摘しています。7
基本的には、CBDの安全性プロファイルは良好ですが、CBDを摂取する事による副作用として、薬物間相互作用、下痢、疲労、嘔吐、過眠症や過剰な眠気、肝臓の異常などが考えられます。
CBD点眼薬とドライアイ
CBD点眼薬とドライアイの関係性について考えていくにあたって、押さえておきたいポイントをいくつかご紹介します。
- まず、ドライアイの原因を正しく特定する事が大事です。CBD、THC、またはその両方のうち、どれを摂取した場合に起こったのかを確認しましょう。
- ドライアイは、緑内障の典型的な症状の一つで、緑内障患者の40~50%が発症を経験していると言われています。
- シェーグレン症候群などの免疫系疾患は、ドライアイやドライマウスの症状を伴いますが、中でも一番一般的な原因は、関節リウマチと全身性エリテマトーデスです。
- 口腔乾燥症またはドライマウスは、カンナビスを喫煙した場合に副作用として現れます。
- 緑内障の点眼薬、抗ヒスタミン剤や抗うつ剤などの処方薬を長期にわたって使用する場合も、ドライアイを発症する事がわかっています。
CBDオイルを点眼薬として使用できる?
オイルタイプのCBDを目薬として目に点眼する事に関しては、今のところ資料が存在しません。前章で取り上げてきた研究資料の多くは、CBDが眼圧に影響を与えることを示すものでした。しかしながら、CBDオイルがどの様な働きを示すかについては、一切の言及がありません。
そのため、CBDオイル自体の親油性と目の疾患の治療効果に関しては、更なる質的研究の余地があると言えます。
ある文献では、緑内障患者と健康な被験者を対象とした非無作為化実験において、カンナビノイドの経口、点眼、および静脈内投与によって一時的に被験者の眼圧が低下したという研究が紹介されています。8一方で、システマティックレビューではこの実験が不明確であると結論づけられた事も指摘しています。
繰り返しになりますが、上記のどの参考資料も、CBDオイルの点眼薬としての有用性については言及がありません。
黄斑変性症に対するCBD点眼薬
カンナビノイドを点眼薬として使用した場合に、治療が期待できるもう一つの疾患として黄斑変性症があります。この病気は、アメリカにおいて視力低下が起こる最も大きな原因の一つとして数えられている眼疾患です。
「黄斑」とは、鋭い焦点を作り出す網膜の中心領域のことで、読む、認識する、画像を脳に取り込むなど、私たちの目を使うほぼ全ての活動に黄斑の機能が関わっています。黄斑変性症は、この部分の機能が低下する事によって発症し、中心視力が失われていきます。
2008年の研究では、血管内皮増殖因子(VEGF)タンパク質の増殖が網膜の異常な血管増殖を引き起こす主な原因であることが明らかになりました。((Penn JS, Madan A, Caldwell RB, Bartoli M, Caldwell RW, Hartnett ME. Vascular endothelial growth factor in eye disease. Prog Retin Eye Res. 2008;27(4):331-371. doi:10.1016/j.preteyeres.2008.05.001))
ある黄斑変性症患者の体験談によると、CBDオイルを舌下投与したところ、黄斑変性症の重症度が中程度から軽度にまで改善したという結果が報告されています。
眼球におけるエンドカンナビノイドシステム
以下の内容は、2016年に行われた研究をまとめたものです。4:
- 網膜は中枢神経系(CNS)の延長に存在する
- 本研究は、眼球組織にカンナビノイドシステムが存在している事を特定した
- 網膜には、エンドカンナビノイドシステムを構成する受容体、リガンド、酵素が存在している
さらに、最近行われた研究では、エンドカンナビノイドシステムが結膜や角膜の炎症軽減、組織修復、そして痛覚の制御を司っている事が明らかになりました。(( Aiello F, Gallo Afflitto G, Li JO, Martucci A, Cesareo M, Nucci C. CannabinEYEds: The Endocannabinoid System as a Regulator of the Ocular Surface Nociception, Inflammatory Response, Neovascularization, and Wound Healing. J Clin Med. 2020;9(12):4036. Published 2020 Dec 14. doi:10.3390/jcm9124036))
この事から、エンドカンナビノイドシステムは眼球の免疫反応に重要な役割を果たしていると結論づける事が出来ます。2016年の研究では、眼疾患におけるエンドカンナビノイドシステムの働きを調節する薬剤の治療効果に焦点を当てた、さらなる研究が求められていると指摘されています。9
まとめ
- カンナビノイドによる眼疾患の治療は複雑なため、最適な投与量、頻度、経路、製剤の種類などがまだ明らかになっていない。こうした不明な点が少しでも解明されるために、カンナビノイドの抗炎症作用と神経保護作用に焦点を当てた、より多くの研究が求められている。
- ナノテクノロジーは、バイオおアベイラビリティを損なう事なく親油性の薬剤を体内に送り込むことができる、画期的な医療技術である。
- 長期にわたって緑内障、黄斑変性症、疼痛、炎症に対して処方薬を服用すると、深刻な副作用が現れる事があり、そうした場合、その副作用に対する疼痛管理が困難になってしまう。植物から抽出された親油性の有効成分にナノテクノロジーを用いた新たな薬物送達システムを適用する事で、バイオアベイラビリティが向上し、その結果として多くの人がカンナビス由来の有効成分を治療に役立てる事ができる様になる。
- 合成カンナビノイドの研究は、網膜疾患の治療と予防に有効である事を示唆する結果を残している。
- 市場には様々なCBD製品が出回っており、処方薬の代替品として、あるいは日常での健康を改善するサプリメントとしてこうした製品を積極的に試す人は多いが、医療従事者は品質や安全性の観点から、カンナビノイド治療を推奨することに躊躇している。CBDを主原料とした製品が正式な治療薬として認められにくい要因として、高濃度の農薬や重金属の残留の可能性、ラベルに記載されているCBDの量との不一致などが挙げられます。
- この様な要因を減らしていくには、CBD製品を購入する際に品質を丁寧に確認する事や、高品質な製品を市場に送り出すための、倫理的なビジネス基準と実践を追求するメーカー側の姿勢が不可欠である。
参考文献
- Taskar P, Adelli G, Patil A, Lakhani P, Ashour E, Gul W, ElSohly M, Majumdar S. Analog Derivatization of Cannabidiol for Improved Ocular Permeation. J Ocul Pharmacol Ther. 2019 Jun;35(5):301-310. doi: 10.1089/jop.2018.0141. Epub 2019 Apr 18. PMID: 30998110 [↩] [↩]
- Vaajanen A, Vapetalo H. A Single Drop in the Eye – Effects on the Whole Body?. Open Ophthalmol J. 2017;11:305-314. Published 2017 Oct 31. doi:10.2174/1874364101711010305 [↩]
- Adelli, Goutham & Bhagav, Prakash & Repka, M.A. & Gul, Waseem & Elsohly, Mahmoud & Majumdar, S.. (2017). Chapter 78. Ocular Delivery of Tetrahydrocannabinol.10.1016/B978-0-12-800756-3.00089-2 [↩]
- Thomas Schwitzer, Raymund Schwan, Karine Angioi-Duprez, Anne Giersch, Vincent Laprevote, “The Endocannabinoid System in the Retina: From Physiology to Practical and Therapeutic Applications“, Neural Plasticity, vol. 2016, Article ID 2916732, 10 pages, 2016 [↩] [↩]
- Sally Miller, Laura Daily, Emma Leishman, Heather Bradshaw, Alex Striker; Δ9-Tetrahydrocannabinol and Cannabidiol Differentially Regulate Intraocular Pressure. Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 2018;59(15):5904-5911 [↩]
- Tomida I, Azuara-Blanco A, House H, Flint M, Pertwee RG, Robson PJ. Effect of sublingual application of cannabinoids on intraocular pressure: a pilot study.JGlaucoma.2006Oct;15(5):349-53 [↩]
- Huestis MA, Solimini R, Pichini S, Pacifici R, Carlier J, Busardò FP. Cannabidiol Adverse Effects and Toxicity. Curr Neuropharmacol. 2019;17(10):974-989 [↩]
- National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine; Health and Medicine Division; Board on Population Health and Public Health Practice; Committee on the Health Effects of Marijuana: An Evidence Review and Research Agenda. The Health Effects of Cannabis and Cannabinoids: The Current State of Evidence and Recommendations for Research. Washington (DC): National Academies Press (US); 2017 Jan 12. 4, Therapeutic Effects of Cannabis and Cannabinoids [↩]
- Cairns, E., Toguri, J., Porter, R., Szczesniak, A. & Kelly, M. (2016). Seeing over the horizon – targeting the endocannabinoid system for the treatment of ocular disease. Journal of Basic and Clinical Physiology and Pharmacology, 27(3), 253-265 [↩]