はじめに
THCとTHCAは、どちらもCBGと呼ばれる親化合物でに由来しますが、その性質は大きく異なります。
THC(テトラヒドロカンナビノール)は、カンナビスから抽出された天然のカンナビノイドです。一方でTHCA(テトラヒドロカンナビノール酸)は、THCの前駆体で、酸性です。
THCは、1964年にその存在が発見されて以来、その治療的価値と向精神作用に大きな注目が集められてきました。しかし、一部の人々がこの化合物を悪用したために、その薬効成分を治療に活かすことが社会的に難しくなってしまいました。
この現状から脱却するには、一人一人がTHCをはじめとするカンナビス成分に対して正しい知識を身につけ、カンナビスに対する誤った認識を変えていく必要があります。
本稿は、科学的根拠に基づいたTHCとTHCAの相違点を明確にし、それぞれの化合物の利点を把握することを目標にしています。
THCとTHCAの違い – 比較早見表
成分 | THC | THCA |
カンナビノイド | 自然に存在する | 自然に存在する |
生体内合成 | THCAを脱炭酸することで生成される | THCの前駆体。カンナビス・サティバから取れる酸。精神活性作用をコントロールする |
精神活性作用 | あり | なし |
治療効果 | 医療応用・娯楽 | 医療応用 |
入手方法 | THCAの分解によって生成される | 収穫された新鮮な植物から抽出される |
分子構造 | C21H30O2 | C 22 H 30 O 4 |
ECSとの相互作用 | 高い親和性と生理活性作用がある | CB1、CB2受容体との相互作用は低い |
上記の表は、THCとTHCAの違いをわかりやすくまとめたものです。科学的な文献資料には、この他にも多くの違いや特徴が記述されています。
THCの歴史
まず、2006年に行われた調査をまとめた文献によると、THCは1942年にウォルナー、マチェット、レヴィーン、ロエベらによって、-Δ8 THCとΔ-9 THCの混合物として初めて抽出されました。1その後、1964年に化学者のラファエル・メコーラムがカンナビスからΔ9THCの分解・合成に成功しました。これにより、THCの化学構造も把握されるに至りました。
Δ9THC(テトラヒドロカンナビノール)は、カンナビスに含まれる精神活性成分であり、神経系や精神に作用することで知られています。
THCの形態を理解するには、カンナビスのケモタイプ(化学型)について少し触れておく必要があります。
- 2011年の研究では、THCはカンナビスから生成される成分のケモタイプの中で最も一般的な植物性カンナビノイドであると報告されました。2
- カンナビスの持つケモタイプの分類にはさまざまなアプローチがありますが、2016年に行われた研究による分析では、1971年に2つの表現型として分類したのが始まりだったとしています。3また、1973年には3つ目のケモタイプが分類されることになりました。
- THC含有量がCBDよりも高い場合はドラッグタイプ
- THC含有量がCBDよりも低い場合は繊維タイプ
- THCとCBDの含有量がほぼ等しい場合は中間タイプ
- この報告に続き、2018年の研究ではさらに別の見解が示されており、4以下の表は、その概要をわかりやすくまとめたものです。
ケモタイプ | 特徴 | 用途 |
I | Δ9-THC型カンナビノイドを主成分とするドラッグタイプ | ・薬物または娯楽として ・最も盛んに研究が行われている |
II | ドラッグタイプと繊維タイプの間の中間タイプ | ・織物や食品として |
III & IV | 精神活性作用を持たないカンナビノイドを多く含み、精神活性作用のあるカンナビノイドが非常に少ない繊維タイプ | ・織物または食品として ・カンナビノイド酸、カンナビジオール酸(CBDA)、カンナビゲロール酸(CBGA)、およびそれらの脱炭酸型であるカンナビジオール(CBD)とカンナビゲロール(CBG)を含有している |
V | カンナビノイドをほとんど含まない繊維タイプ | ・ヨーロッパ諸国では商業利用が認可されている ・通常、0.2〜0.3%のTHC含有率の法的制限が適用される |
Where is THC found?
2012年の研究では、植物の生態でみられる「直接防衛」として、表面保護の役割を担っている5
植物の毛、トリコーム、トゲ、針、肉厚葉などの部位、さらには昆虫や動物を殺したり妨害するテルペノイド、アルカロイド、フェノール類などの成分に焦点を当てて調査が行われました。
さらに、2012年の研究では、これらのトリコームには豊富なカンナビノイドが含まれていることが明らかになりました。6頭状の突起を持つトリコームには、テトラヒドロカンナビノール酸(THCA)、カンナビジオール酸(CBDA)、カンナビゲロール酸(CBGA)と、それらの脱炭酸体であるテトラヒドロカンナビノール(THC)、カンナビジオール(CBD)、カンナビゲロール(CBG)が含まれています。
エンドカンナビノイドシステムにおけるTHCの役割
エンドカンナビノイドとその受容体は私たちの体のあらゆる場所に存在し、免疫系や神経系を含めた様々な器官の作用に複雑に関わっています。
さらに、2013年に行われた研究では、エンドカンナビノイドはCB1とCB2に対する主要の生理的活性化物質でありながら、通常の神経伝達物質ではないことが明らかになりました。7
また、2017年の研究からは、脳、中枢神経、肝臓、腎臓などの部位に、豊富なGタンパク質共役型受容体が存在していることからCB1受容体が優勢であると結論づけられました。8
さらに重要なのは、このCB1受容体はカンナビスの精神活性成分であるTHCと結合し、その機能を模倣することです。
一方、CB2受容体は主に免疫系の細胞や組織に多く存在しており、より独立的な働きを持っており、特に脳内では特徴的なパターンを示します。
2013年に行われた研究では、THCは神経細胞の信号伝達システム(受容体の働き)を模倣したり、乗っ取る事で脳に影響を与えることがわかりました。7
THCの治療効果
- 2011年の研究では、THCの鎮痛作用、筋弛緩作用、抗痙攣作用、9さらには、気管支拡張作用、神経保護の抗酸化作用、そしてアスピリンの20倍の抗炎症作用が確認されました。
- 2019年に行われた研究では、THCが顕著な症状緩和をもたらしたと報告され、10またTHCを含むカンナビスが安全な医薬品としてより広く応用される見込みがあることが示唆されました。
- 2014年には、1年間カンナビスを使用した経験のある100人を対象に調査研究が行われ、その結果、カンナビスにはストレス緩和、不安解消、不眠症改善11食欲増進、うつ病改善、鎮痛剤の断薬などのいくつかの治療効果があることが確認されました。
THC:過剰摂取による影響
医療用カンナビスの治療効果について知識を深めることは非常に大事なことですが、過剰摂取や誤用の危険性について知ることも、同様に重要です。
2014年の研究では、カンナビスによる依存症のリスクが指摘されており、12特に思春期の若年層がカンナビスを乱用することが問題視されています。カンナビスの使用による健康リスクにはこの他にも、特定の脳領域における神経障害、不安やうつ病の発症リスクの増加、精神病の再発などがあります。
さらに重要なのは、カンナビスの過剰摂取によって交通事故のリスクが上がるという事実です。
この点について、2020年の研究では、THCを摂取したドライバーが精神運動障害を引き起こし、自動車事故のリスクを高めるという結果が報告されています。13また、過去にカンナビスを使用していた人において、使用を断った後もTHCの作用が現れることがわかっています。
What is THCa?
At this point, it is imperative to understand that all the major cannabinoids begin their life as CBGA (cannabigerolic acid). Hence also is referred to as the mother of all cannabinoids. Maturity, exposure to heat, light, or other driving forces ( including burning or vaporizing) initiates thermal decarboxylation.
2009年に行われた研究では、THCAは非酵素的脱炭酸によって生成されるTHCの酸性前駆体であることが証明されています。14さらに、THCAはTHCA合成酵素によって、前述のCBGA(カンナビロール酸)の生合成反応から生合成されていることも明らかになりました。
下の図は、これらのカンナビノイドの進化を化学構造で表したものです。図の右側(B)は、CBGAからCBN、そしてCBNからCBGへの変換を表しています。画像の左側(A)は、THCAからTHC、CBDAからCBDへと変化する様子を表しています。どの変化の過程においても、酸性のカルボキシル基が排除されていくのがわかります。
さらに、6大カンナビノイドと呼ばれるTHC、CBD、CBG、CBN、CBC、THCVは、酸性を帯びた状態で誕生することがわかっており、それがいわゆるCBGAであり、これがTHCA、CBDA、CBCAに変換されていくのです。
Where is THCa found?
THCAの治療効果
カンナビノイドは、医療応用への期待が高い事からこれまでに数々の研究が盛んに行われてきました。
そのうちいくつかの研究で、THCAの治療効果が認められたものもありますが、そのほただ、潜在的な利点として、次のようなものが考えられます。とんどが事例証拠や患者の記録などに由来しています。
- 抗炎症作用
- 神経保護作用
- 制吐作用
- 抗増殖作用
- 不眠症
- 疼痛管理
THCA-Aに関する研究
- 2016年に発表された研究では、THCA-Aの細胞実験が行われ、その肯定的な結果に裏付けられた治療効果の可能性が示されています。16以下はその治療効果です。
(1)免疫調節作用、(2)抗炎症作用、(3)神経保護作用、(4)抗悪性腫瘍作用
また、この研究はTHCA-Aに関する不明瞭な点を明らかにしました。
1965年には、フリードヘルム・コルテ教授がTHCAの存在を初めて確認しました。
翌年1969年、ラファエル・メコーラム氏が、THCAの異性体である第2の酸の存在を特定し、前者をTHCA-A、後者をTHCABと命名しました。
- また、2017年の研究では、THCA-Aの治療利用への関心が高まっているにもかかわらず臨床応用が進んでおらず、不安定であることが指摘されました。17加えて、THCA-AはCB1との結合力が弱いという仮説のもと、カンナビスの代表的な効果が得られないことも同研究で指摘されました。
- こうした研究とは反対に、2019年に行われた研究では、脱炭酸の不安定性を解決するために、THCA-Aを二量体化する対策が検討され、18これが実現すれば臨床応用の道が開かれ、薬理応用の可能性が高まると期待されています。
まとめ
- カンナビス及びその主成分である化合物は、薬理学と臨床応用の可能性を飛躍的に広げた。また、カンナビスに関する多くの研究が、特定のケモタイプの選択的交配や合成の組み合わせの開発が進み、カンナビスの治療効果を高めた。
- THCAとその治療効果に関する研究は依然初期段階にあるものの、極めてポジティブな研究結果が残されている事から将来性が期待できる。
参考文献
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