CBD坐薬は、肛門や膣から薬を挿入するために作られた錠剤タイプのCBD製品です。このCBDの摂取方法は、特定の患部の治療に特化しており、集中的に狙った場所に届いて効果を発揮します。
慢性疾患を患っている場合には、特にこの坐薬タイプが用いられます。この坐薬タイプのCBDを服用した場合、バイオアベイラビリティ(体内に入った成分のうち何%が体に作用するのか)はどれくらいなのでしょうか。
本稿では、CBDを利用している方が正しい知識を得てCBDを安全で効果的に使用できる様に、上記の様なCBD坐薬に関するさまざまな疑問に答え、CBD坐薬の情報をまとめていきたいと思います。万が一の事態を招かないためにも、誤った知識によって使い方を間違えてしまわない様に心がけていきましょう。
坐薬とは?
坐薬は、特定の薬を肛門や膣から摂取するために設計された錠剤タイプの医薬品で、一般的には円錐形や楕円形の形をしています。
2016年に行われた直腸への薬剤投与に関する研究の中で、坐薬は「体内に入ると溶ける小さな魚雷型のペレット」と表現されています。1
坐薬の例:
- 便秘改善のためのグリセリン坐薬
- 痛みや発熱を抑えるパラセタモールやアセトアミノフェン坐薬
ここで、座薬と浣腸の違いについて触れておきましょう。浣腸は、便秘解消のための下剤として、または診察や手術で腸をきれいにするためなどに用いられ、固形ではなく液体の薬が肛門内に注入されます。
一方、坐薬は肛門や膣に挿入する固形タイプで、時間をかけて体内に吸収されます。
CBD坐薬
CBD坐薬は、カンナビスを配合したオイルをココアバターやゼラチンが覆う2層構造になっていて、直腸に挿入されると、これらの外殻部分が体温で溶け、CBDが体内に吸収されます。
あまり知られていない事ですが、実はTHCもCBDも、何十年も前から坐薬タイプの製品が販売されていました。しかしながら、世界中で注目を浴びるまでには至りませんでした。ではなぜ、これだけ高い薬効がある成分が普及しなかったのでしょうか?その疑問の答えは次の章にあります。
用途
- 2010に行われたある研究によると、坐薬は、吐き気や嘔吐、病状が進行した病気や神経障害で経口摂取が出来なくなってしまった患者に有効なh服用方法であると結論づけました。2
- またある事例報告によれば、坐薬でのCBD摂取は、THCを多く含むカンナビスを吸った場合に比べて陶酔作用がほとんど起こりませんでした。
- 2005年の研究結果では、大腸の上皮細胞が生化学的、または機能的にもカンナビノイドに反応している事が明らかになっています。3 また、上皮細胞のCB1受容体には、粘膜免疫に影響を与える免疫調節の役割を持っていると考えられています。
- 慢性進行性の病気を持っている場合、高濃度のTHCが効果的だとされています。経口摂取の場合、成分のほとんどが肝臓で処理されるため、知られている通りの向精神作用が現れてしまいますが、直腸摂取であれば肝臓を通さずに、しかも最大限の吸収率で体内に吸収されるため、こうした副作用を抑える事ができます。
坐薬の種類
坐薬は、用途によって直腸坐薬、膣坐薬、尿道坐薬(アルプロスタジル坐薬)の三種類に分かれます。この3タイプは、それぞれ特定の症状の治療に特化した成分と構造になっています。
以下の表は、代表的な症状に対するそれぞれの坐薬の適用性をまとめたものです。
直腸坐薬 | 膣坐薬 | 尿道坐薬 |
便秘 | 細菌・真菌感染症 | 勃起不全 |
痔 | 子宮内膜症の痛み | 男性性機能障害 |
吐き気 | 膣乾燥症 | |
けいれん | ||
統合失調症・双極性障害 |
どんな人が坐薬タイプを選ぶべき?
坐薬タイプのCBDは、男女関係なく使用する事ができますが、使用する場合は必ず、医療従事者や専門家による医学的アドバイスに従うようにしてください。自分だけの知識と判断で坐薬を使って家庭治療をする場合、望ましくない効果をもたらす可能性がありますので、基本的には医師に相談してから使用する様にしましょう。
坐薬タイプのCBDとTHCに関する研究結果
骨盤領域(生殖器、膀胱、骨盤内結腸、直腸)には、足や背骨につながる骨盤神経叢と呼ばれる神経の枠組みが収まっており、また、大腸の組織にはTHCの働きを媒介するCB1およびCB2受容体が存在します。
カンナビノイドを直腸に投与する事で、これらのカンナビノイド受容体が活性化され、痔や炎症などの局所的な症状を治療する事が可能だと言われています。
以下のリストは、1985年から2019年に行われたカンナビノイドに関するいくつかの研究と、直腸への影響についての学説をまとめたものです。
- 1985年の動物モデルを使った研究では、THCは直腸経路では吸収されないと結論づけられた。4
- 1991年の研究でも同様に、Δ9-THCの経口投与ではバイオアベイラビリティ(吸収率)が不安定で低く、坐薬においてはバイオアベイラビリティが全く見られないと報告された。5 しかしその後、同様の研究でTHC-ヘミスクシネート(THC-HS)と呼ばれるプロドラッグ(体内に入ってから患部に届くまでに分解されない様な構造に化学構造を変化させた薬)を用いて、坐薬のバイオアベイラビリティを70~80%に引き上げる事に成功した。
- 1996年に行われたパイロットスタディ(研究の初期段階で行われる少人数を対象とした実験)では、経口摂取によるバイオアベイラビリティが直腸投与に比べて45~53%と低かった事が報告された。6 これは、経口摂取の初回通過効果の高さが吸収率を低くしていると考えられる。また、経口摂取と直腸投与の間の有効性は、25~50%程度だった。
- 1999年の研究では、坐薬はTHCの送達と血漿レベルの安定化に有効な成分だと結論づけている。7 これは、経口摂取ではTHCの吸収が不安定になってしまい、初回通過効果が毎回変動するためである。
- 2019年のレビュー研究では、上記の研究とは反対に直腸投与が治療のための摂取方法としては一般的ではない事と、バイオアベイラビリティは坐薬の組成によって非常にばらつきがある事を指摘している。8
研究の進展
薬物送達システムの分野では、現在も日夜問わず研究開発が行われており、このおかげで目覚ましい技術革新と、未だ明らかになっていない可能性が日々見出されているのです。
2017年に行われた研究では、体全身への循環を目的とした直腸薬物送達の進歩と新しいアプローチが示唆されました。9
以下がその一例です。
新しい薬物送達システムとして、中空タイプの坐薬、熱応答性、粘膜接着性の液体坐薬、ナノ粒子システムなどが発表されました。これらの新タイプの坐薬のモデルは、局所および全身に作用をもたらすための薬物送達を可能にする、非常に優れた特徴を備えています。
まとめ
- カンナビスは、お茶からタンポンまで、さまざまな形で製品化されており、その市場は急速に拡大しています。こうした、誰でも気軽にカンナビス製品を手に入れる事ができる状況下にある中で、これらの製品を問題を生じる事なく安全に利用するためには、一人一人が利点、矛盾点、安全性などを十分に理解する必要があります。
- 2003年の研究で、THCの効果の現れ方が摂取方法によって大きく異なることが指摘された事は注目に値します。10 ここで生じる疑問点は、なぜほとんどの研究がTHCのバイオアベイラビリティと薬物送達システムのみに焦点を当てているのかという事です。THC以外のカンナビノイドの直腸経路での有効性、特に治療効果についての知見は限られています。
- ここ数年間での、新しいモデルによる直腸薬物送達システムの進歩は目ざましく、より効果的に全身への循環が可能になる事を示唆しました。これらの開発は、カンナビス坐薬の治療的応用に新たな発見と可能性をもたらしてくれる事でしょう。
参考文献
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