ヘンプの歴史は、1万年にもおよびます。炭素年代測定の結果によると、ヘンプは紀元前8,000年頃にはすでに使用されており、1 イギリス史においても、紀元前800年頃にはすでにヘンプの栽培が行われていたという記録が残されています。16世紀には、ヘンリー8世がイギリス海軍の艦隊の装備の材料となるヘンプを大量に栽培するよう、農民に義務付けました。成長したヘンプの高さは30〜45cmほどになり、密度の高い繊維質の茎で自らの体重を支えています。
ヘンプは主に北半球に広く分布しているカンナビス・サティバと呼ばれる植物の一種で、多様な製品を工業的に利用するために栽培されています。この種は、脳の働きを変化させる陶酔作用を持つTHC(テトラヒドロカンナビノール)の濃度が低く、安全性の高い有効成分であるCBD(カンナビジオール)の濃度が高いのが特徴です。
ヘンプはどんなことに使われる?
冒頭で触れたように、ヘンプ使用の歴史は長く、人類は古代よりこの植物を様々な形で生活に役立ててきました。イギリスにおいては、戦艦やその部品の製造に利用され、そして現在でも、現代ならではの用途で使用され続けています。
東洋におけるヘンプの歴史
アジアで初めてカンナビスの栽培を始めたのは、中国でした。2 中国はこの植物を様々な用途で利用しましたが、最も盛んに行われていたのは医療への応用でした。当時の文献には、ヘンプの根を血栓や感染症の治療に使用していた記録が記されています。3 また、ヘンプのその他の部位は抜け毛予防や胃痛の緩和に使用されていたようです。4 これらの治療効果は、医学がより発達した現代の研究によって科学的に証明される事となりました。
現代では更なる研究が行われ、ヘンプに秘められたその他多くの健康上のメリットが発見されているため、より多彩な使用方法で活用されています。例えば、ヘンプには脂肪酸やアミノ酸が豊富に含まれているため、実の部分は麻の実ナッツとして、一般的なナッツと同様に食べられています。
また、ヘンプは食用油の原料としても使用されており、現在では多くの家庭でヘンプシードオイルという名前で親しまれています。この植物から作られたオイルには多くの健康上のメリットがあり、日常的に使用する食用油にヘンプシードオイルを選ぶ人は年々増えています。
ヘンプは、ペットフードにも使用されています。猫にヘンプ入りのキャットフードを与えると、毛並みが健康的な艶を帯びるようになったり、犬、牛、馬に対してはサプリメントとして使われていたりします。
肌の健康を保つためにも、ヘンプは役立ちます。ヘンプが配合されたローションは、肌に栄養と潤いを与えます。カンナビスに含まれる必須脂肪酸が乾燥でひび割れた肌を改善してくれるのです。ヘンプから作られるヘンプオイルは、多くの油性製品の製造の元となります。例えば、塗料にもヘンプオイルが使われますが、この場合他の油で作られた塗料よりも耐久性が高くなるため長持ちします。また、ヘンプオイルには毒性がないため、環境にも優しいという利点があります。
世界中で使われているヘンプ(麻)
西洋では、ヘンプは麻という繊維の原料として繊維産業で利用されており、手触りが似ている綿より耐久性があるため、より幅広い用途の布地を作るのに使われています。世界最古の織物やジーンズ、そして初めて作られたアメリカ国旗も麻から作られました。綿が登場するまでは、衣料品業界での主流はこの麻だったのです。
あまり知られていない事ですが、ヘンプオイルは1870年代に石油が発見されるまで、燃料としてアメリカの多くの家庭で使用されていました。興味深いことに、今日ではディーゼルエンジンで使用されるガソリンに代わるバイオ燃料の原料として、ヘンプオイルが使用されるようになりました。5 バイオ燃料は、一酸化炭素のような温室効果ガスを発生させないため、環境にも優しいと言われています。
また、ヘンプはプラスチック製品の代わりとしても注目を集めています。現在売られているもののほとんどは、プラスチックの袋に包まれています。プラスチックは生分解性ではないため、捨てられるとそのまま分解されずに残り、環境を汚染し続けますが、天然素材であるヘンプは自然界で分解されるため、こうした容器を製造するための原料としては理想的なのです。
ヘンプが合法な国は?
工業用ヘンプは、健康食品として販売されているカンナビス製品の原料とは品種が違うため、注意が必要です。ヘンプに関しては、合法化されている国もあれば、ヘンプ製品の使用を違法としている国もあります。
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ヘンプはどのような効果をもたらす?
カンナビスの種子は驚くほど栄養価が高く、種子の30%以上が脂質で、その中にはα-リノレン酸や脂肪酸が豊富に含まれています。また、多くの効能を持つガンマリノレン酸や心血管疾患のリスクを軽減するオメガ3脂肪酸なども含まれています。
ヘンプから抽出されるカンナビジオール(CBD)は、現代の医学における、最も重要な発見のひとつだと言われています。CBDは、ヘンプに含まれる天然化合物で、人や動物の抱える数多くの病気や症状の治療に役立つとして、医学の世界で最も注目されている有効成分です。
また、ヘンプの成分は心臓病治療にも有効性がある事が研究によって明らかになっています。6 ヘンプの種子には、体内の硝酸の生成に使われるアルギニンと呼ばれるアミノ酸が含まれており、この硝酸は血管を拡張・弛緩する働きがあるため、ヘンプを摂取する事で血圧が下がり、心臓病のリスクを抑えます。
また、ヘンプは消化を促すため、クローン病などの消化器系の疾患を治療するためにも使用されます。食物繊維は、普段の食生活において消化を助ける役割を担っていますが、ヘンプシードには、不溶性食物繊維が80%、水溶性食物繊維が20%含まれています。水溶性食物繊維は、消化器系細菌の貴重な栄養源となることに加え、血糖値を抑えたりコレステロールの調整も行います。一方で不溶性食物繊維は、糖尿病の発症リスクを低下させる効果があると言われています。
ヘンプとCBDに関する医学研究
これまで、何百ものCBDが体にもたらす関する研究が行われてきました。78 その研究の多くは、CBDが人の体に有益である事を示す結果を残しています。その証拠として、世界保健機関(WHO)が2018年6月に発表したCBDに関する最新情報では、以下のように述べられています。9 「CBDは摂取しても安全な成分であり、まれに起こる下痢、食欲の変化、疲労感などの副作用は、CBDがもたらすメリットとは比較にならないほど軽微なものだ」
実際、CBDと同等の効果を持つ医薬品は、CBDよりもはるかに重篤な副作用を引き起こすものばかりです。副作用が少ないということは、患者が安心して治療に専念できるということです。そのため、薬を服用するときは、常に副作用について気をつける必要があるでしょう。
カンナビスという植物は、古くから人間や動物に多くの恩恵を与えてきました。常に科学技術に頼って健康を保とうとしてきた結果、高い副作用にも悩まされるようになった現代だからこそ、私たちが考えている以上に多彩な薬効を持つこの植物の種子の可能性に、今一度目を向けるときなのかもしれません。
参考文献
- Zatta, A., Monti, A. and Venturi, G. (2012). Eighty Years of Studies on Industrial Hemp in the Po Valley (1930–2010). Journal of Natural Fibers, 9(3), pp.180-196. [↩]
- Antiquecannabisbook.com. (2019). History of Cannabis — Chinese Medicine. [online] Available at: http://antiquecannabisbook.com/chap2B/China/China.htm. [↩]
- Sofowora, A., Ogunbodede, E. and Onayade, A. (2013). The role and place of medicinal plants in the strategies for disease prevention. African Journal of Traditional, Complementary and Alternative Medicines, 10(5). [↩]
- Schultz, K., Hayman, L., O’Connell, K., Baum, M., O’Connell, K. and Schultz, K. (2019). Hemp As Medicine From Ancient China To Modern Times. [online] Ministry of Hemp. Available at: https://ministryofhemp.com/blog/hemp-as-medicine/ [↩]
- University, H. and Hemp, U. (2019). Hemp fuel – Hemp.com Inc.. [online] Hemp.com Inc. Available at: http://www.hemp.com/hemp-university/uses-of-hemp/hemp-fuel/ [↩]
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- The MCAA. (2019). List of CBD’S & Cannabis studies. [online] Available at: https://www.themcaa.net/list-of-cbds–cannabis-studies.html [↩]
- Kogan, N. and Mechoulam, R. (2019). Cannabinoids in health and disease. Dialogues in Clinical Neuroscience, 9(4), pp.413–430. [↩]
- Expert Committee on Drug Dependence (2018). CANNABIDIOL (CBD). [online] World Health Organization [↩]