はじめに
筋痙攣は、自分の意図に反して筋肉が収縮してしまう症状を指します。様々な疾患に対して治療効果を持つカンナビス由来のカンナビノイドは、この症状にも効果があるのでしょうか?本稿では、その可能性に迫っていきたいと思います。
筋痙攣の影響を受ける最も一般的な部位には、太もも、ふくらはぎ、足のアーチ構造、手、腕、首、肩甲骨、胸郭などがあります。筋痙攣による収縮は、個々の筋肉、筋群全体、または一部の筋繊維のみで起こるなど、発現の仕方は一様ではありません。
チャーリーホースという名でも知られているふくらはぎの痙攣では、数秒から数分、または断続的に痛みを伴う痙攣が起こり、次第に痛みが引いていきます。筋痙攣は前述の通り種類も複雑で、単収縮、腓返り、痙縮、筋収縮などの、様々なタイプの筋痙攣を表現する専門用語が多く存在します。
本稿では、筋痙攣に関する以下の点について理解を深め、カンナビノイドを用いた筋痙攣の治療が効果的なのかどうかを明らかにしていきます。
主な筋痙攣の原因
- 激しいスポーツやエクササイズ(発症原因のほとんどがこれにあたります)
- ストレッチ不足・高温な環境での運動
- カリウム、カルシウム、ナトリウムなどのミネラル不足
- 妊娠
- 最新の研究で、電解質異常、60歳以上の神経疾患、神経根の圧迫、動脈血管の圧迫などが筋痙攣を引き起こす要因として新たに指摘されました。1
- 高血圧、腎不全、心筋梗塞、脳卒中などの特定の症状に対する利尿剤等の服用が、筋痙攣を引き起こす可能性が示唆されました。
- 2008年に行われた調査で、中枢神経系の慢性疾患として知られる多発性硬化症(MS)は、筋肉のこわばり、痙攣、腓返り、痛み、震えなどの症状を伴う事が明らかになりました。2さらに、多発性硬化症を患った患者の90%が筋肉の痙攣と痙縮の症状を経験していることも同研究で報告されました。
筋痙攣にはどんな治療法がある?
前章では筋痙攣の根本原因について説明しましたが、原因に対する知識があれば、これからご紹介する治療法のメカニズムをより深く理解する事ができるでしょう。また、原因についての知識があれば、治療の過程で悪化させる行動を取らない様に気を付ける事にもつながります。繰り返しになりますが、筋痙攣には以下の二通りの原因があります。
- 運動
- 多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄損傷などの神経学的疾患
- 運動誘発性痙攣の治療にはストレッチやマッサージが有効だとされています。ストレッチやマッサージは、肉離れや痙攣を起こした筋肉をリラックスさせる効果があります。
- また、リラックスさせるためのホットパックや痛みのある部分を麻痺させるための氷パックも、一時的な緩和に役立ちます。
- また、鎮痛剤などの処方薬も筋痙攣に対して用いられます。
- 神経疾患の症状として痙攣が起こっている場合、鎮痙剤による治療が推奨されています。鎮痙剤には、筋緊張を起こした筋肉をリラックスさせる効果があります。
- しかし、ある研究によると、こうした治療法は部分的な効果にとどまったり、あるいは全く効果がない場合もあるため、強い副作用の影響を受けるばかりで一向に治療が進まないという状況に陥る患者も少なくないとしています。3
その結果、カンナビスによる家庭療法を選択する人も、年々増えていると言われています。その理由として、カンナビスの抽出物であるCBDが、多発性硬化症で起こる痛みや痙攣を抑えるのに有効であることを示す事例証拠がいくつも報告されてきている事が考えられます。
カンナビスは筋肉の痛みを軽減する仕組み
- 2012年の研究では、英国で行われた多発性硬化症(MS)の典型的な症状である筋肉の痙攣、筋肉のこわばり、4その他の関連痛に苦しむ成人患者を対象とした無作為化試験の結果が報告されています。この試験では、カンナビス抽出成分であるTHCを毎日摂取した対象者とプラセボとの比較が12週間行われ、その結果、この成分が多発性硬化症患者に起こる典型的な筋肉関連の症状の治療に有用であり、効果的に痛みを軽減すると結論付けられました。
- 2019年の研究では、成人の多発性硬化症患者がカンナビスを吸引摂取する事で一定の症状緩和が認められる事を明らかにしました。5
- さらに、多発性硬化症と脊髄損傷を含む混合神経症状の患者を対象として、THC、CBD、THC:CBD、プラセボの4つの軸に焦点を当てた横断研究が行われました。結果は以下の通りです。(a) THCグループにおける痙攣の改善、(b) カンナビノイドの3タイプ全てにおける、重症度の改善
- カンナビスによる多発性硬化症治療に関する臨床研究のほとんどが植物全体の抽出成分を対象としている事が、ある研究レビューで大きく取り上げられています。THCとCBDの比率は、1:1、2:1、3:1など、系統によって異なります。
- 2009年の研究では、THCとCBDを混合させた抽出液は忍容性が高いと報告されています。6このようなカンナビノイドを組み合わせた療法は、症状緩和だけでなく、中毒やその他の副作用を軽減するのに役立ちます。
- これまでの内容を総合すると、いくつかの研究からの調査では、カンナビスは痙攣の治療に有効であり、ほとんどの多発性硬化症(MS)の症状を軽減させる事ができると結論付ける事が出来ます。
筋痙攣の治療に最適なカンナビスの品種
カンナビスの植物ブリーダーは、サティバ系とインディカ系の好ましい特徴を組み合わせ、より望ましい効果を生み出すことができる新しいハイブリッドの品種を探求しています。そうして出来上がった新しい品種は、サティバ系とインディカ系の特徴が絶妙にブレンドされていたり、どちらかの遺伝子が優位に現れていたりします。
ハイブリッドタイプのカンナビスの効果はTHCとCBDの比率によって大きく異なり、中にはうつ病、不安症、パラノイア(偏執病)、慢性疼痛などの症状を治療するのに最適な特徴を持った品種もあります。
ある調査研究によると、神経障害、痙攣、発作、不眠症、関節痛などの症状を治療する目的では、インディカ系統のカンナビスが好んで使用されている事がわりました。7
医療用カンナビスの品種とその投与経路について調べた研究では、数ある投与経路のうちのいくつかが、吐き気や痙攣などの症状に効果を示した事が報告されました。8
例えば、インディカ系の中でも人気のあるアフガン・クッシュは、THCとCBDを豊富に含んでいますが、CBDの含有量の方が比較的多いと言われています。この品種の持つ向精神作用とその他の薬効が、慢性疼痛や脚の痙攣による痛みを和らげることがわかっています。
CBDが筋痙攣に与える治療効果
- 筋痙攣に対しては、特にTHCとCBDを組み合わせて使用した場合とTHC単独で使用した場合に痙攣の頻度が大幅に減少した事が確認されたものの、CBDを単独で使用した場合には改善が見られなかったとある研究レビューの中で結論付けられています。
- この発見は、2003年に行われた多発性硬化症のマウスモデルを対象した研究でも同様の結果が得られたことから、より信憑性の高いものとなりました。その研究によると、THC単独では筋肉弛緩作用と鎮痛作用が迅速に現れましたが、CBD単独では痙攣の抑制が見られませんでした。この事から推察できるのは、抗痙攣作用を有しているのはTHCだという事です。
どのタイプのCBDが筋痙攣に効く?
ヘンプペディアでは、様々な疾患やライフスタイルに影響を与える障害に対してどの様にカンナビスが影響を与えるのかを、豊富なデータを基に記事を投稿してきましたが、その中で紹介してきた、CBDがプロの格闘家やスポーツ選手における脳震盪を改善したり、神経系の合併症、筋骨格系の障害、疼痛管理などに役立つという事実は、本稿のテーマである筋痙攣と深いつながりがあります。
これらの疾患の治療にあたり、カンナビノイドを体に取り込む方法は人によってバラバラです。同様に、必要とする用量や効力も、人によって大きく異なる可能性があります。
現在公開されている研究には、筋痙攣、腓返り、または筋肉関連の痛みを軽減するのに最適なCBDの摂取方法を調べたものはなく、ほとんどの臨床研究ではTHCとCBD、またはTHC単独の使用が望ましいという点のみにフォーカスしているばかりで、摂取経路についての洞察が欠けています。
例えば、ある研究で数人の患者がカンナビスを吸引摂取した後に筋痙攣が減ったという結果が報告されていますが、9
その内容は薬用のカンナビスを吸引した場合に限定されています。
一方、最近行われた研究では、CBDオイルを皮膚に直接塗布する事で痛みやその他の気になる症状が大きく改善されたという結果が出ています。10ただし、これは末梢神経障害のある患者を対象とした場合の結果です。
多発性硬化症と末梢神経障害では、性質や原因、治療法が大きく異なりますが、この二つの神経疾患には、いくつかの共通した症状が現れます。
CBDの使用に少しずつ慣れてきたら、特定の箇所の痛みを和らげるために、肌に塗るためのフルスペクトルCBDオイルやバームを試してみることをお勧めします。また、個々の状況やライフスタイルに合わせて、舌下摂取やCBDカプセルを併せて使用することで、体全体に起こる痛みのコントロールや安定した精神状態を保てる様になるでしょう。
CBDパッチは、炎症による痛み、局所的な痛み、筋肉の痙攣、多発性硬化症、化学療法、腰痛、怪我など、痛みを伴う症状を和らげるる効果があります。
CBD製品にはどんな副作用がある?
一般的には、不安やストレスを増減させる精神作用を持つTHCの様なカンナビノイドにはある種の副作用が生じる可能性がある事がわかっています。ただ、その現れ方や度合いは症状や投与量、その他多くの要因によって様々です。
- 副作用には、めまい、ドライマウス、吐き気、下痢、疲労、注意力低下、バランス感覚の低下、無為や夢想、混乱、エネルギー不足、尿路感染症などが挙げられます。
- 2012年に行われた研究では、最もよく見られる副作用として神経系障害と腸の問題が指摘されていますが、いずれも深刻な影響を与えるものでありません。11
まとめ
- 腓返りは、神経疾患由来でなければ、ほとんどの場合は自然に治癒していきます。
- いくつかの研究によると、多発性硬化症(MS)患者の90%は、治療が難しい筋痙攣、筋肉のこわばり、攣縮、腓返り、激しい痛みなどの症状を経験しています。
- THCとCBDの混合、もしくはTHCの単独での摂取は、痙攣の頻度を軽減する事がわかりました。
- 現在、多発性硬化症の患者に処方されている医薬品のほとんどは高価であるにもかかわらずその効果が疑わしく、強い副作用も伴います。そうした従来の治療薬の欠点が、多くの患者がカンナビス療法をはじめとする家庭療法に関心を寄せている大きな理由です。
- 多発性硬化症、筋痙攣、神経疾患、その他の運動関連疾患に苦しんでいる人々の中には、カンナビノイドに関する研究が進むことによって、よりこの有効成分が気軽に治療に生かす事ができる日が来るのを心待ちにしている人も少なくないはずです。また、知見が広まる事で、こうしたカンナビノイドの治療効果を最大限に高める応用方法も見つかる事でしょう。
参考文献
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- BMJ-British Medical Journal. “Cannabis extract eases muscle stiffness typical of multiple sclerosis, study suggests.” ScienceDaily. ScienceDaily, 9 October 2012 [↩]
- Nielsen, S., Murnion, B., Campbell, G., Young, H. and Hall, W. (2019), Cannabinoids for the treatment of spasticity. Dev Med Child Neurol, 61: 631-638 [↩]
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- Daniel D. Pearce, Katherine Mitsouras, and Kristopher J. Irizarry, Discriminating the Effects of Cannabis sativa and Cannabis indica: A Web Survey of Medical Cannabis Users, The Journal of Alternative and Complementary Medicine 2014 20:10, 787-791 [↩]
- Corral, Valerie. (2001). Differential Effects of Medical Marijuana Based on Strain and Route of Administration. Journal of Cannabis Therapeutics. 1. 10.1300/J175v01n03_05 [↩]
- Mack A, Joy J. Marijuana as Medicine? The Science Beyond the Controversy. Washington (DC): National Academies Press (US); 2000. 7, MARIJUANA AND MUSCLE SPASTICITY [↩]
- Xu DH, Cullen BD, Tang M, Fang Y. The Effectiveness of Topical Cannabidiol Oil in Symptomatic Relief of Peripheral Neuropathy of the Lower Extremities. Curr Pharm Biotechnol. 2020;21(5):390-402 [↩]
- BMJ-British Medical Journal. “Cannabis extract eases muscle stiffness typical of multiple sclerosis, study suggests.” ScienceDaily, 9 October 2012 [↩]