はじめに
経皮吸収型のCBDパッチは、局部的に皮膚に貼る事でカンナビノイドを血流から取り込むタイプのCBD製品です。
WHOの報告によれば、世界人口の死亡原因の70%が心血管疾患、がん、慢性呼吸器疾患、糖尿病などに代表される非感染性疾患によるものだとされています。他にも数え切れないほど多くの疾患が、この非感染性疾患に分類されています。では、これらの慢性疾患に共通する原因は一体なんでしょうか?
タバコ、アルコール、不健康な食事、運動不足などの生活習慣が頭に思い浮かんだ人は少なくないはずです。しかし、これらの疾患の診断や治療、予防には未だに多くの課題があります特に、飲み薬、カプセル、静脈内投与などの従来のドラッグデリバリーシステム(薬物伝達システム)は、痛みや炎症を抑える効果に大きな改善の余地があります。さらに問題なのは、こうした多くの医薬品の使用には極めて深刻な副作用を伴う事です。
こうした現状を改善するには、医薬品の有効性を高める事に加えてバイオアベイラビリティを最適化する必要があります。
幸いなことに、近年新たなドラッグデリバリーシステムが開発された事により、特定のカンナビノイドを経口、経皮、埋め込み式などの方法によってより効率的に、ターゲットの患部に行き渡らせる事ができる様になりました。
そうは言っても、CBDパッチは病気の治療にカンナビスやCBD製品を使用している人にとってまだ未知の製品であり、抵抗がある人も多いと思います。基本的に、経皮吸収によってカンナビノイドビジオールを摂取する場合、CBDは組織に直接作用し、CBD成分を持続的に一定量放出するという特徴があるため、管理もしやすい優れた製品だと言えるでしょう。
本稿では、CBDパッチの機能と効果について最も頻繁に聞かれる質問に、一つ一つ答えていきたいと思います。
CBDパッチとは、どんな製品ですか?
パッチとしても知られるTDDS(経皮薬物送達システム)と呼ばれるタイプの医薬品は、2017年の研究で「治療成分を内蔵した分離タイプ(筆者翻訳)の医薬品」と定義されています。1
CBDパッチは一見、手のひらサイズの大型の絆創膏の様な見た目をしており、正方形や円形のタイプが販売されています。CBDパッチは、CBDが注入された薄いプラスチックの層に、皮膚への浸透性を高める粘着剤と試薬がコーティングされています。この経皮吸収の技術によって、一定の量のカンナビノイドを皮膚を通して血流に直接送り込む事ができるのです。
2008年に行われた研究では、現在使用されているほとんどの経皮吸収パッチのデザインがほぼ同一であるという調査結果が報告されました。2
このタイプの薬剤は、一方の面に成分が漏れ出さないためのコーティングがなされ、もう一方の粘着面は皮膚に接触する仕様になっています。パッチを生産しているメーカーによると、パッチのデザインは様々ですが、基本的には防漏性のある不透過性の支持体、薬物貯留層、放出制御膜、接着層を含む2〜4つの層によって構成されています。こうした構造を持っているパッチタイプは、液状もしくはゲル状の薬品を投与するのに最適なデザインだと言えます。
また、経皮吸収パッチは防水性でもあるため、汗をかいたり水がかかってしまっても剥がれにくくなっているため、このタイプの製品を使用すればCBDをより安定的かつ効果的に体内に取り込む事が可能になります。
CBDパッチには様々な種類があり、効力はその種類によって変わります。ほとんどのメーカーが販売している主なタイプとしては、フルスペクトラム、ブロードスペクトラム、アイソレーションなどが挙げられます。
パッチの種類
この章では、2007年と2011年に行われた二つの研究を参考にしながら、パッチの種類とそれぞれの機能について詳しく説明していきます。34
マトリックス型 | リザーバー型と膜制御型 | 粘着剤一体型 |
ポリマーマトリックスが薬剤の放出をコントロールする | 防漏性の放出制御膜の上に重なっているリザーバーが薬剤を保有し、一定量を放出する | 薬剤が粘着剤の層に直接組み込まれる |
薬剤と粘着剤の相性が悪いか可溶性でない場合に使用される | 効率的に皮膚に浸透する使用例:リドカイン、ニトログリセリン、ニコチンなど | |
薬剤がパッチ全体に均一に行き渡っている | 送達のペースをより正確に制御する事ができる | |
リザーバー型に比べ、誤って過剰摂取したり乱用してしまう危険性が低い | 適用される皮膚の面積が大きいため、薬物が皮膚に急激に放出されてしまったり、過剰摂取となるリスクが高い |
CBDパッチの使用方法
- CBDパッチの使い方は、見た目から想像できる通りとても簡単です。ただ、CBDを効果的に体内に吸収するには、皮膚の正しい場所にパッチを貼る必要があります。
- 痛みのある箇所を触りながら特定し、そのスポットを覆う様にパッチを貼りましょう。
- 骨が近かったり、皮膚の厚い層が覆っている肘などの間接部分は避けてください。
- CBDパッチを体の静脈の近くに貼ると、分子が皮膚の大部分に密着することでCBDが皮膚に効果的に浸透していきます。この血液に直接取り込むことのできる経皮吸収により、CBDのバイオアベイラビリティ(体内に吸収される割合)が最大限に発揮されます。
- 首元、耳の後ろ、足の前面、足首の後面、手首、肩、上腕二頭筋と下腕三頭筋の間、太もも、ふくらはぎ、腰といった部位が効果を感じやすいと言われています。
- パッチを貼る前に、アルコールを湿らせた綿棒などで貼る箇所をやさしく拭いてください。
- 外側のフィルムを剥がしてパッチを貼りましょう。
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CBDパッチが作用するメカニズム
CBDパッチを皮膚に貼り付けると、一連の化学反応が連鎖的に発生します。まず、体温によってパッチが温められると、パッチに含まれるCBDの分子やその他の治療成分が放出されます。これらの分子が放出されると、皮膚はそれらを吸収し始め、血流に取り込まれていきます。
それでは、このプロセスをより詳しく見ていきましょう。
2011年の研究によると、パッチは薬剤、ライナー、粘着剤、放出制御膜、支持体、その他の成分で構成されています。4
- ライナーには、薬物が放出しないよう、薬剤の領域を密封する役割があります。
- 支持体は、薬剤を保護するためのカバーで、皮膚の一番表面に露出している角質層の水分を保持します。
- 粘着剤は、使用中にパッチを皮膚にしっかりと固定させるためのものです。
2007年に行われた研究では、以下のように説明されています。3
- パッチを貼ると濃度勾配が生まれ、それにより薬剤が皮膚に移動し始めます。(パッチの種類によって作用機序は異なります)
- (パッチの種類によって作用機序は異なります)
- 薬剤はその後、皮膚の内側の層に移動します。さらには、血管ネットワークに吸収され、薬剤が全身に行き渡ります
経皮吸収型CBDパッチで得られるメリット
- 一般的に、経皮吸収型のCBD製品は目立ちにくく、使用方法も簡単だと言われています。
- また、人の手を借りず自分自身で手軽に使用する事が できます。
- CBDパッチは、必要に応じて使用するタイプのカンナビノイド製品なので、不要と感じた時はすぐに取り外して使用を中止する事ができます。
- 2018年の研究によると、経口摂取の場合吸収が遅く、また不規則で効果が安定しない事が分かっています。一方で、経皮吸収によるCBD摂取では、初回通過の代謝や腸内プロセスがありません。5
- これにより、より高いバイオアベイラビリティを実現しています。
- 同様に重要なのは、経皮吸収によるCBD摂取では、カンナビジオールがより長時間安定的に放出されその結果、薬剤のピーク濃度も低くなります。
- 局所へのCBDの投与は、関節炎、末梢神経障害性疼痛、皮膚疾患などの局所的な痛みやその他の症状を改善する最良の方法です。
- CBDパッチは、炎症による痛み、局所的な痛み、筋肉の痙攣、多発性硬化症、化学療法、腰痛、怪我など、痛みを伴う症状を軽減する働きがあります。
- 2015年に行われた研究では、CBDの局所使用により、目立った副作用を伴う事なく関節炎の疼痛関連行動や炎症を和らげるなどの治療効果が期待できると結論づけています。
- 2017年の研究では、薬剤に関連する吸収率低下、胃腸刺激、肝臓における初回通過効果などの問題がすべて解消されるこの方法は、多くの薬剤の治療価値を向上させる事ができると発表しています。
経皮吸収型製剤のデメリット
2017年に行われた研究では、特定の薬剤の皮膚における浸透率が低い点が指摘されています。
皮膚の浸透率が低い事は、皮膚が外部の物質を体内に取り入れないための保護バリアとして機能している事を考えれば、当然に思えます。
ここで注目したいのが、1997年に発表された皮膚のバリア機能に関する研究結果です。この研究では、表皮の一番外側の層には外部の侵入に抵抗する働きがあるため、薬剤の経皮投与は不可能であると述べています。
しかし,上記の研究とは対照的に,皮膚のさまざまな部位(前腕,肩,頭皮,背中,腹部,臀部など)で薬剤の浸透が認められると主張している研究もあります。
例えば、2010年の研究では、促進剤が治療薬の皮膚への浸透性を高めるという報告がされています。また、イオン導入(電圧を利用した経皮的薬物送達法)と組み合わせて一般的に使用可能な促進剤には、テルペン、脂肪酸、グリセリドなどがあることも付け加えられています。
経皮吸収パッチはドラッグデリバリーの新しい形?研究でわかった事
- 2008年に発表された研究資料によると、アメリカで1979年に酔い止め薬のスコポラミンを3日間にわたって投与できるパッチが承認されました。そして、その10年後にニコチンパッチが発売されたことで、経皮吸収型製剤の知名度が一気に高まりました。
- 経皮吸収型製剤は現在では、避妊やホルモン補充療法、超音波による鎮痛など、さまざまな用途と場面で使用されています経皮吸収で投与される薬剤には、エストラジオール、リドカイン、テストステロン、エストロゲン、プロゲステロン、などがあり、その他多くの配合剤にもこの投与経路が適用されています。
- 2015年の研究では、紀元前3000年頃の古代エジプト・バビロニア医学において、植物、動物、鉱物の抽出物を原料とした軟膏やパッチが治療に用いられていた事がわかりました。6
まとめ
- 経皮吸収型パッチを使用する事で、胃腸による非効率な吸収や初回通過効果を避ける事ができる。また、より制御された薬剤の放出と一定の血漿レベルの維持が可能となるため、カンナビノイドユーザーの多くが、この方法でカンナビノイドを治療目的で使用している。
- カンナビノイドパッチの有効性、リスク、患者の服用コンプライアンス、経口摂取と経皮投与を同時に行なった場合の相互作用、薬剤の性能など、いくつかの研究や調査が不十分な点がある。
- 別の研究では、皮膚温度、年齢、性別、民族、皮膚の水分量、皮膚の代謝などの生物学的要因が吸収の度合いに影響を与える事が確認されている。(( Singh I, Morris AP. Performance of transdermal therapeutic systems: Effects of biological factors. Int J Pharm Investig. 2011;1(1):4-9. doi:10.4103/2230-973X.76721 ))
- 経皮吸収型のCBDパッチは、慢性痛、炎症、皮膚症状、局所的な痛みなどの症状を軽減する。精神疾患を患っている人に対して経皮吸収パッチによる処方薬の投与が盛んに行われ始めているという興味深い研究がある。((Isaac M, Holvey C. Transdermal patches: the emerging mode of drug delivery system in psychiatry. Ther Adv Psychopharmacol. 2012;2(6):255-263 ))
- 現状では、カンナビノイドの経皮吸収パッチは経口摂取に比べて高価なため、今後の開発においてはより費用対効果の高い製剤の開発が求められている。
参考文献
- Sandeepthi et al, TRANSDERMAL DRUG DELIVERY: AN OVERVIEW J. Global Trends Pharm Sci, 2017; 8(4): 4537 – 4541 [↩]
- Prausnitz MR, Langer R. Transdermal drug delivery. Nat Biotechnol. 2008;26(11):1261-1268. doi:10.1038/nbt.1504 [↩]
- Lyn Margetts, FRCA, Richard Sawyer, FRCA FIPP, Transdermal drug delivery: principles and opioid therapy, Continuing Education in Anaesthesia Critical Care & Pain, Volume 7, Issue 5, October 2007, Pages 171–176 [↩] [↩]
- Singh I, Morris AP. Performance of transdermal therapeutic systems: Effects of biological factors. Int J Pharm Investig. 2011;1(1):4-9. doi:10.4103/2230-973X.76721 [↩] [↩]
- Bruni N, Della Pepa C, Oliaro-Bosso S, Pessione E, Gastaldi D, Dosio F. Cannabinoid Delivery Systems for Pain and Inflammation Treatment. Molecules. 2018;23(10):2478. Published 2018 Sep 27. doi:10.3390/molecules23102478 [↩]
- Pastore MN, Kalia YN, Horstmann M, Roberts MS. Transdermal patches: history, development, and pharmacology. Br J Pharmacol. 2015;172(9):2179-2209. doi:10.1111/bph.13059 [↩]